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一炊の夢

龍門山の影に生きて:山内さんの昭和時代を通じた自分史

【発行日】    2012年12月
【著 者】    山内 勉 
【印刷・製本】  あさひ高速印刷株式会社 | 無線綴じ
【サイズ・頁数】 A5判 | 384頁

表紙は題字のバックに紀州富士といわれる龍門山のカラー写真があしらわれ、シンプルだが印象的。龍門山は著者が戦時中に疎開し、その後も就職するまで暮らした母親の実家がある和歌山県の名山で、紀ノ川市打田の思い出に重なる風景を、と山内さんはこの写真を表紙に選んだ。その表紙を開くと、10ページの巻頭カラーグラビア。戦前使われていた紙幣や硬貨、少年倶楽部の表紙、戦争中に使った弁当箱や硝子製の水筒など貴重な写真が収められている。本文は9章からなり、第1章故郷から大東亜戦争、疎開、就職…と時系列で詳しく自分史を辿っている。65歳で企業を退職した後、老化防止にとパソコンで自分史を書き始めたが、途中何度か中断し、諦めそうになったが、夢の中に過去のシーンが現れ記憶が呼び起こされたという。そして、書き綴った原稿は400枚を越えた。何回も推敲し、文章を整理、最終的に家系図や経歴を加え、384ページに及ぶ自分史を完成させた。

「パソコンですから、書き直すことが容易にでき、これだけの文章を書くことが出来ました。手書きではここまでのものは出来なかったかもしれません」と独学でパソコンを学んだ山内さんは話す。インターネットで自費出版を検索、業者を選定し、本の体裁や紙質など仕様を相談し、見積もりを依頼。費用を抑えるためカバー以外はオンデマンド印刷にすることに。「素人が手づくりした自分史ですが、書籍紙に印刷され、カラーのカバーが巻かれると立派な一冊の本になり、嬉しいですね。私が生きた時代の証人として歴史を記すことで若い人に伝えていければ」それは、山内さんが自分史を記した理由のひとつでもある。

 昭和10年代、幼少期の生活や風俗、戦時中の疎開先で見た和歌山大空襲の記憶、大阪大空襲後に屍を見ながら、父親と家を探した記憶とその詳細な記録、戦後の混乱期に15歳6ヵ月で大手電機メーカーに養成工として就職、持ち前の頑張りで管理職となり、系列の新会社の常務取締役で退職した半世紀に及ぶ日本の製造業の発展を支えてきた歴史、それらが丁寧に書き記され、山内さん一個人の人生を通して、日本の昭和史が見えてくる人間味溢れる立派な「自分史」となっている。

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