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カリンの実ひとつ

−鈴木浩允 駄作文集−

【発行日】    2014年3月26日
【編 集】    鈴木 雄介  
【印刷・製本】  あさひ高速印刷株式会社 | 無線綴じ
【サイズ・頁数】 127×188mm | 182頁

会社を定年後、折に触れエッセイを書いていた鈴木浩允さんはそれを「駄作文集」としてファイルにまとめていた。その中から52編を選んで、データー化し遺稿集としてまとめたのが、「カリンの実ひとつ」。編集を手がけた息子の雄介さんは本のまえがきに、鈴木さんが入院中に話した「カリンの実ひとつ落ちたくらいのことでも話してほしい。今のぼくには、それだけでもニュースなんだから」という言葉を引用。そして題名は「カリンの実ひとつ」と付けられた。

「駄作文集」の中に「カリンの実」と題するエッセイがあり、ある事情を背景に鈴木さんが自宅の門脇に植えたカリンがみごとに育ち青い実をつけたことが書かれている。

本書は遠い日のこと・旅の思い出・日々の随想・身辺雑記・詩と童話の5章からなり、「はじめに」を雄介さんが、「むすび」には孫の櫻子さんが「じいじさんへ」送った手紙が収められ、最後に鈴木さんの履歴が添えられている。

エッセイの中には「地震 午前五時四十六分」「震災、そのあと」として阪神淡路大震災当時の被災地の様子と周辺地との温度差に触れた一節があり、鈴木さんの記憶の断片は貴重な記録にもなっていて心が揺さぶられる。

巻頭には写真を配し、子ども時代、青年時代のモノクロ写真と家族や孫と写したカラー写真、自宅前に大きく育ったカリンの木、2013年秋に実ったカリンの実の写真も掲載され、鈴木さんの想い出と家族の思いが詰まっている。

青と赤の二色遣いが目を引く斬新な表紙は鈴木さんの出身校である慶応義塾大学のイメージカラーを使って雄介さんがデザイン。シンプルだが印象的な仕上がりだ。

身近な人に渡されたこの一冊。手に取った人が本のページを開くとエッセイの一篇、一篇に鈴木さんの存在を感じ、想い出が蘇ってくる、そんな遺稿集だといえる。

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